お母さんが悪いわけ? 4

息子の返事を信じない 母親は 次のように 言いました。

 

 

 「 お母さん 嫌だからね 手伝うの! 自分で やんなさいよ。

 

 

 帰って 半分以上残ってたら ずっと ウルトラマンなしだからね 」

 

 

僕は イライラした お母さんの返事の仕方に 嫌な感じを 受けました。

 

 

 「 終わってるって。だから ウルトラマン 見ていいでしょ 」

 

 

彼は よほど ウルトラマンが 楽しみらしく 気持ちが ウルトラマンから

 

 

 離れていません。

 

 

 「 できてるんでしょうね。 間違ってたら やっぱりだめだよ。

 

 

 そういうのは 終わってるって 言わないんだからね 」

 

 

「 何[だよ ちゃんとやったよ それで 間違ってたら しかたないじゃん。

 

 

 何で 塾の宿題なんて あるんだよ 」

 

 

息子の方も イラついてきて 語気が 荒くなってきました。

 

 

 すると お母さんも 言い返して きました。

 

 

 「 聞いてたでしょ。 お母さんが ◆◆ちゃんのお母さんより いい大学

 

 

 入れたのは ちゃんと 勉強したからだよ。うらやましがってたでしょ。

 

 

 ああやって 後から 後悔しないように ちゃんと 塾 行かせてあげて

 

 

 んだから 頑張ってよ! 分かった? ねぇ 返事は? 」

 

 

 お母さんは 息子に 口ゲンカで 優位に立とうと

 

 

 屈服を意味する返事を 要求しました。

 

 

 「 誰も 行きたいなんて 言ってないじゃん。 無理やりじゃん! 」

 

 

 ムッとした顔を向けて 息子が 反論しました。

 

 

 その目には 我慢に我慢を 重ねてきたという 憎しみが

 

 

 こもっているように 感じられました。

 

 

 僕は 自分が 彼と同じ頃 こんな目で 見た相手は

 

 

 いじめをしてきた 相手でした。

 

 

 「 なんて 悲しいことだ。親を こんな目で

 

 

見なきゃいけないなんて。辛いな 」

 

 

 彼の心中を 察すると 思わず こう思いました。

 

 

 彼の返事に対して 答えた 母の言葉は 最低なものでした。

 

 

 「 当たり前でしょ。だいたいね あんたが ちゃんとできていれば

 

 

 行かせたりしないのよ。あのね お母さんは 一年生で

 

 

 九九言えたんだよ。習う前に 言えたよ。あんた 学校で習ったのに

 

 

 言えてないじゃん。だから 塾 通わせてんでしょ。九九言えないと

 

 

 これから先 何もできないんだよ。皆にバカにされるよ。

 

 

 あんた それでいいの? 」

 

 

 「・・・・・・言えないの 俺だけじゃないもん 」

 

 

 彼は やや小声で ポツリと 答えました。

 

 

 「 あんたと数人でしょ。 ほとんどの人が言えること

 

 

 何で言えないの?   やる気の問題よ。

 

 

 塾まで 行かせてあげてるんでしょ。

 

 

 それなのに どうして まだ 覚えられないの!」

 

 

 「 おなか 痛い  」

 

 

 彼は 突然 会話とは まったく 関係のないことを 訴えました。

 

 

 分の悪くなった 彼にとって 必死の抵抗策なのだと

 

 

 ピーンと 来ました。

 

 

 「 また そうやって ウソをつく。家について

 

 

 胃薬飲めば 治っちゃうわよ   そんなもの。

 

 

 何回 同じウソをつくの 」

 

 

 「 うそじゃないもん ほんとに 痛いんだもん 」

 

 

 「 うそでしょ 絶対に! あんた 都合が悪くなると

 

 

 いつも おなか痛いって

 

 

 話そらそうとするでしょ。違う? ウソつき! 」

 

 

 「 ウソつきじゃないもん 」

 

 

彼は やや 大きな声で 言い返しました。

 

 

 すると お母さんも 声を 大きくして 言い返したのです。

 

 

 「 さっきだって 宇宙人がいたとか いるわけないでしょ。

 

 

 ウソばっかり つくんじゃないの! 」

 

 

 激しくなった 言い合いに 周りの目や耳が 注がれました。

 

 

 ちょっと 周りの空気が 変わったことに ]

 

 

母親は 気がついたようでした。

 

 

 すると 母親は 今までと 別人のように 

 

 

 物静かな口調で 話始めたのです。

 

 

「 お母さん 間違ったこと言ってないよ。 どっちが 正しい?

 

 

 それは 分かるよね。親にウソつくことは 泥棒の始まりなの。

 

 

 だから 昔から 親にウソつくことは きちんと 反省させてるの。

 

 

 いい 怒ってるんじゃないんだよ。お母さん あんたの将来を

 

 

 考えて 言っているんだよ 」

 

 

 ウソです。 口調は 穏やかですが 怒っています。

 

 

そして 自分の言葉に 酔いしれていると 僕は感じました。

 

 

 母親は 明らかに 周りを 意識しています。

 

 

私は これだけ すばらしい 教育を 子供にしていると 

 

 

 見せつけているのです。

 

 

 「・・・・・なんで ウルトラマン なしなの 」

 

 

 「 まだ そんなこと 言ってるの たかがテレビでしょ。

 

 

 お母さん いろいろしてあげてるよね。この間だって、

 

 

 ディズニーランド 連れて行って あげたよね。

 

 

 映画も 連れて行ってあげたよね。

 

 

 お母さん あんたのために いろいろして あげてんでしょ。

 

 

 それなのに どうして 言うこと 聞けないの!

 

 

 お父さんに 言いつけるよ。お父さんも 怒るよ。

 

 

 もう 何もしてやんないって 」

 

 

 息子は 押し黙っています。目を閉じて 聞いています。

 

 

 明らかに 彼は 爆発しそうな 感情を抑えていると 分かりました。

 

 

 ところが 自分の言葉で 子供の中に 憎しみが生れていることを

 

 

 母親は 気がついていない様子でした。

 

 

 怒りというより、憎しみです。

 

 

 もうたくさんだという 怒りを通り越したものです。

 

 

 この母親の 言葉は 嘘っぱちです。

 

 

 子供には 穏やかな口調で 正しいこと と言っていますが 

 

 

 子供は見抜いています。

 

 

 正しいこと = おまえには 腹が立っている。いいかげんにしろ

 

 

 という メッセージだと。

 

 

 「 うるせぇんだよ! 」

 

 

 ついに 息子が 切れました。

 

 

 近くに立っていた 乗客は 僕も含めて 彼に目が向きました。

 

 

 目に涙を浮かべていました。

 

 

 お母さんのことが大好きなのです。

 

 

 そのお母さんが あまりに分かってくれないことに 苦しんでいるのです。

 

 

 大好きなお母さんが 他の子をほめ 自分にダメだしを繰り返すことに

 

 

 自己否定感 できる子への嫉妬がごちゃ混ぜにになり 心を乱しています。

 

 

心を落ち着かせ楽になりたいのです。

 

 

そこへ  繰り返される ダメ出し。

 

 

嫌気がさし 憎しみが湧いてきているのです。

 

 

 から悲しいのです。

 

 

大好きなのに どうして僕を 分かってくれないの!

 

 

 大好きなのに、こんな気持ちでお母さんをにらんでいる自分が

 

 

 嫌で悲しいのです。そういう涙なのです。

 

 

 すると お母さんまで 涙ぐんで 答えたのです。

 

 

 「 ねぇ お母さんが 悪いわけ? お母さん 頑張ってるよね。

 

 

 分かるよね。・・・だったら どうして あんたも 

 

 

 頑張ろうって気に なってくれないの? 」

 

 

「 ・・・・ 」

 

 

 彼は 何も 答えませんでした。

 

 

 というより 答えられない と 僕は 思いました。

 

 

 母親も それを知っていて 言っているのだと 思います。

 

 

息子は 貝が殻を閉じたように 静かになってしまいました。

 

 

 すると やや 勝ち誇ったように 母の言葉は 続いたのです。

 

 

 「 分かったわね。 さっきみたいに 相手の気持ち

 

 

 汲み取れない人間になっちゃだめ。

 

 

 あんたのために 頑張ってるんだよ。

 

 

 そういう気持ち 分かってあげないと かわいそうでしょ。

 

 

 そういう やさしさがない人間は 嫌われるよ。

 

 

 分かった? 少しずつ 大人になっていこうね! 」

 

 

 母親は 微笑むと 一人うなずき 静かになった 息子を見ました。

 

 

 息子は 相変わらず 黙ったままでした。

 

 

 やがて 後楽園に着きました。 

 

 

 「 降りるわよ 」

 

 

 親子は 手をつなぐと 静かに 降りて行きました。

 

 

 僕も 後ろから ついて降りましたが 階段を降りると 

 

 

 僕とは 反対方向に 歩いて 行ってしまいました。

 

 

 少し 見ていましたが まだ お互い 言葉を交わした様子は

 

 

 見られませんでした。

 

 

 

-続く-