夜 二人で お酒を飲んでいるうち
母が うつらうつら してきました。
母は よくテレビを見ながら 眠ってしまうのです。
僕は 急いで いたずらを実行して 母を起こしました。
「 お母ちゃん こんな所で寝ちゃうと 風邪引いちゃうよ。
もう 寝なよ。 疲れたろう。
あとは 洗っておくから ベッドに 入んな 」
「 そうか ありがと。 お母ちゃん 先に寝るよ。お休み 」
母は 厚めの靴下を 履くと 急いで ベッドに もぐりこみました。
「 何? どうしたの 健ちゃん あったかい!」
母は 驚きの声を 上げました。
「 ふふふふ ひっかかりおったな。 忍法 人間湯たんぽの術 」
僕は 母が うたた寝をしている隙に 母のベッドに もぐりこみ
激しく 動いて 摩擦熱を起こし 熱を ため込んだのです。
母は うれしそうに
「 ありがと ありがと 幸せ 幸せ 」
と 満足げに しています。
僕は 母が 子育てについて 話した言葉
「 住んでいた寄宿舎なんか ボロボロで 隙間風ばかりだろ。
とにかく どうしたら おまえ達が 気持ちよく
家で過ごせるだろうかしか 考えてなかった。それだけだよ 」
で 次のような出来事を 思い出したのでした。
50年ほど前 僕の家族は
K病院の寄宿舎で 暮していました。
冬になると 雪が 家中の隙間から 吹き込んで
とても 寒い家でした。
そんな ある日 母に 僕が 言ったのです。
「 お母ちゃん 夜 布団に 入ると すごく 冷たいんだ。
夏に あの布団なら いいのにね 」
すると 母は こう 返事をしたのです。
「 そうだね。 そうなれれば いいね。
でも お母ちゃんは 冬でも 冷たい布団に
入るのが 好きなんだ 」
思いもよらぬ 答えでした。
「 なんでぇ~。 冷たいじゃん。 寒いよ 」
「 うん でも お母ちゃん 昔から 寝る時 最初 体がほてっちゃうから
冷えていた方が はやく 眠れるんだ 」
「 へぇ~ 夏は大変だけど 冬 便利だね 」
こんな 会話をしたのです。
その日の夜 いつもより 早い時間に 二人は 寝床に 呼ばれたのです。
姉は まだ 父と テレビを 見ていました。
「 何で今日は こんなに 早いんだろう? 」
そう思いながら 布団に入った 僕たちは 二人そろって 声を上げたのです。
今から 考えると 寝床の用意は 自分達に させていたのに
その日は 母が 用意してくれたので
何かあるなと 考えることも できたのですが
突然 呼ばれた 僕らは 何も考えず 布団に 飛びこんだのです。
「 あったかい! お母ちゃん 布団 あったかいよ どうしたの? 」
「 ふふふ お母ちゃん あっためて おいたんだよ 」
「 どうやって すごく あったかいよ。でも 何も入ってないよ 」
僕らは 目をパチクリさせて 母に 聞きました。
母は うれしそうに 答えました。
「 人間湯たんぽの術だよ 」
「 どうやんの? 」
僕らは 興味津々で 聞き返しました。
「 布団の中で こうやって 体を めちゃくちゃ 動かすんだよ 」
母は 布団の中から 見上げる 二人に向かって
激しく ツイストして 見せたのです。
「 こうか 」
僕ら 二人は 真似をして 激しく
布団と 自分達の体を
こすり合わせました。
「 ほらほら そのへんで やめなさい。今度は 汗かいて 冷えちゃうよ 」
「 あっ そっか 」
僕ら 二人は 動きを止めて 布団に発生した熱を 味わいました。
「 ほんとだぁ~ めちゃくちゃ あったかい。 お母ちゃん ありがとう 」
この日以来 僕は とても 布団が 冷たい場合
必ず こうするようになりました。
そのたび あの日 2人分 あたためるために
布団の中で 必死に 動き回っている母が 想像され
思わず 微笑んでしまうのです。
「 お母ちゃん ありがとうね 」
毎回 心の中で 感謝します。
この日 この出来事を 思い出した僕は
そのお礼を してあげたく なったのでした。
母の 満足する顔を見て あの日の 自分達を 見ているようでした。
ちなみに 母は まだ 冷たい布団が 好きのようです。
このように
子育ての天才が 考えていたことは
ただ1つだったのです。
「 どうすれば 子供達が 気持ちよく 過ごせるか 」
たった これだけだったのです。
-続く-
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