「 おまえ そいつのこと まだ怒ってるのか? 」
「 いや別に あれだけやれば せいせいしてますよ。 小学校時代 あんな
いばってたくせに 惨めでしたよ。もういつもキョドって(おどおどして)ました。
面白かったですよ 」
普段は見せない 彼の病んだ心に 僕は驚きました。
彼の心には いじめた相手への 反省のかけらもありませんでした。
「 おまえさ 奴隷制度って どう思う? 」
彼に聞くと
「 そりゃ間違っていると思います。黒人に生まれただけで あんな扱い受ける
いわれはないと思います 」
「 だよな 俺もあの時代 黒人に生まれていたらと考えたら ぞっとするよ。
だったら 分るだろ そいつにしたことが正しいか 」
「 いやいや あいつは 奴隷に相当しますって 」
「 バカ野郎! おまえ それ 俺に本気で言っているか? 」
僕は 彼を真剣な目で見据えました。
めったに怒らない僕が怒ったので 彼は緊張した顔つきになりました。
「 いや ノリで 」
「 おまえ 人をノリで奴隷にすんのか? 人が人を奴隷にするなんて 許される
ことじゃないぞ 」
「 いや すみませんでした。言い過ぎました 」
「 バカ! 俺に謝ってどうする。謝る相手が違うよ 」
「 えっ でも あいつここにはいないし 」
「 いないくもいいんだ。いつでもいい 空見て 心が落ち着いたら 一言 ごめ
ん 悪かったって謝ればいい。友達を奴隷にするって 自分の心を 腐った心の
奴隷にするってことなんだぞ 」
少しの沈黙の後 彼はこう言いました。
「 でも そんなんで 許してくれますかね 」
「 まず そこから始めろよ。それで もし どうしても 本人に会って 謝りた
くなったら 会って謝れよ。おまえに任せるよ 」
「 はい 分かりました 」
「 おまえさ 本当はひどいことしたと 分かってるだろう。そういうことした自
分を 本心では 許していないはずだ。空に向かって謝るって 相手だけでなく
そういう 腐ったことしてしまった自分に 謝るってことでもあるんだよ。
そうすれば さっきみたいな 腐った言葉 言わない人間になる。誰が 聞いても
気持ちいいもんじゃない。おまえは それに気がついていない。素直になるって
時々 辛いもんだ。でもな そうしないと 一生 さっきみたいな 腐った言葉を
吐く。 一度やってみな そうすりゃ スッキリするよ 」
後日 彼から空に向かって謝ったとの報告がありました。
ただ 本人に謝ったかどうかは分かりません。でも それをしなかったとしても
彼を責めようとは思いません。
-続く-
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