間もなく、待ちに待った夏休みが始まりました。
ケンは「虹虫」のおかげで、自殺をすることなく、
夏休みを迎えることができたのです。夏休みに入ると、
いじめっ子達に会う回数はぐんと減り、楽しい毎日が続きました。
休み中、チョウチョ、クワガタ、カブトムシなど、
いろいろな虫を捕まえて遊んでいました。
8月のカンカン照りの日でした。
ケンはきれいなチョウチョを何匹か捕まえた後、
虫かごから逃がしてあげていました。
オレンジ色、水色、黒色からなる
美しい模様を持ったチョウ、白い羽のチョウ、
黄色の羽を持ったチョウなど、さまざまなチョウがいました。
その中に、金属のようにきらきら光る、水色の羽を持ったチョウがいました。
このチョウを放してあげた時でした。
キラキラと光る水色の光が、ケンに「虹虫」を思い出させたのです。
「虹虫はどうしているだろうか?」という思いが、ふと頭をよぎりました。
「会いに行っても、死ぬ気はないから、また会えないかもしれない。
でも行ってみよう」
ケンはさっそく病院の裏山へ向かいました。
裏山に着くと、境界線を越えて、どんどん奥へ進みました。
「きっといないだろうな。だけど、あの虫の正体を知りたい。
何だったんだろうあの虫?」
会えないことを前提としているのに、なぜか心は期待に満ちていました。
ついに、あの木にたどり着きました。
「ああ~!いた」
ケンは目を見張りました。
キラキラと輝く羽を持った「虹虫」が、なんと何匹もいたのです。
濃くやや厚い葉っぱを食べているもの、木にとまっているものなど、
見ただけで、五、六匹はいました。
「なんてきれいな虫なんだ、初めて見た」
ケンは木にとまっている虫を捕まえて、手の平に乗せてみました。
長細い米粒のような形で、頭は水色に光っています。
羽には赤黒く輝く縦の線が入り、赤、緑、黄緑、黒と、
まばゆい光を放っていました。
それも見る角度によって、微妙に違った色に見えました。
「きれいだし、面白い。まるで虫の万華鏡みたいだ」
ケンは手の平でジッとしている虫を、
いろいろな角度から眺め、時を忘れました。
すると、虫はしばらく、大人しくしていましたが、
ブンと羽を広げると、光を放ちながらどこかへ飛んで行きました。
「来て良かった。うれしい。死ぬ気じゃなかったのに、
どうして出てきてくれたんだろう。
生きていれば、いいことあるよってこと? そう言いたいのかな」
虹虫の中には、切り倒された木の上で、
日向ぼっこをしているものがいて、
ケンは特に気に入りました。
のんびり日光浴している虫が、ただそこにいるだけで、
幸せを感じさせる七色を発していました。
何しろケンがそばに腰を下ろしても、逃げていかないのです。
まるでケンを友達だと判断して、
「ここに座って、一緒にひなたぼっこしようよ」
と、誘っているかのようでした。
この木は、ケンにとって、
死ぬことしか考えられなかった木でした。
白いうじのような虫がいて、命とは程遠い場所でした。
そんな場所で、虹虫は日光を吸収しながら、
誇らしげに光り輝いていました。
「どうしてこんなに光っているんだろう。
自分がこんなにきれいだって
知っているんだろうか? そうか、仲間を見て、
自分も輝いているってことは、分かっているだろうな。
でも自分の姿は、どうやって見ているんだろう? 見たいだろうな~」
ケンは、少しの間座って、一緒に日光浴を楽しむことにしました。
座りながら、前回登った木を見上げてみました。
「あっ、何か飛んでいる」
上空に何か飛んでいるのが見えました。
はっきり分かりませんでしたが、ケンは確信しました。
「きっとあれは、虹虫に違いない」
日光浴をしながら、足元の枯れ葉を、
なんとなく、ちょいと払ってみました。
すると、枯れ葉の下にも、「虹虫」が現れたのです。
「おっ、こんな所にもいたか。
そうだ、君も日光浴したら? 元気になるよ」
そう思いながら、その虫を掴んでみました。
「あっ、これ死んでいる」
他の虫は元気なのに、どうしちゃったんだろう?
手に取って調べてみましたが、
どこにも襲われたような傷もなく、原因が分かりませんでした。
「寿命がきちゃったのかな~。そうだ、これ持って帰って、
何ていう虫が聞いてみよう。
お母ちゃんは無理でも、お父ちゃんなら知っているかも」
ケンは虹虫を持ち帰ると、さっそく母親に見せてみました。
手の平に乗せた虹虫を見せながら、やや興奮気味に聞いてみました。
「お母ちゃん、僕、ものすごくきれいな虫見つけたんだ。
今までこんなにきれいな虫、見たことがないよ。
お母ちゃん、これ何ていう虫か知ってる?」
「あっ、これタマムシだよ。懐かしいねぇ~。
本当にきれいだねぇ~。お母ちゃんもこの虫、好きだよ」
「ほんと! そうか、タマムシって言うんだこれ」
-続く-
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