前回、コウちゃんはタマムシのような弟だと書き、
その理由を今回書くとお知らせしていたので、
予定通りそうさせて頂きます。
僕はこれまで、数人の友人から子供に対して、
同じ相談を受けたことがありました。
子供が心を傷つけ悩んでいるようだ。
だが、助言しようとすると切れて、
部屋に引っ込んでしまうというのです。
しかし、親として何か言ってやらないと、
もしこれ以上失敗したり、傷ついたりしたら、
かわいそうでならない。心配でならない。
どうすれば、話を聞いてくれるようになるだろうか、
とにかく我が子なのに、子供の気持ちが分からない。
これが相談者に共通した相談内容でした。
そんな時、僕はいつもコウちゃんを思い出して
こう返事をしていました。
「そんな時は、笑顔を忘れずに、
ただそばにさえいてあげればいいんだよ」
そんな時のやり取りの中で、思い出深い一コマを紹介します。
「えっ、適当だな~。他人事だと思って簡単に言ってくれるよ。
ちゃんと相談にのってくれよ。
そんなんで、いい方に進むのなら相談してないよ。
それにしても、家の子はまったく、親不孝者だよ。
こっちは心配で言ってやってるのに、何で切れるかね。
子供のプライドってやつかい?
それなりにオブラートにくるんだやさしい言い方して、
諭しているつもりなんだけど、何がいけないんだろな」
ビールを僕のコップに注ぎながら、
友達は具体的な対応策を要求してきました。
「いやいや,俺は本気で言ってるんだよ。
そんなオブラートの言葉、必要ないって」
「何で?」
「うん、君が子供が傷ついているって、感じられるってことは、
まず君の子供、君に傷ついていることを
隠していないってことだよ。
君が言うように、本人は相当傷ついて、
そして相当頑張っているんだろうな。
でもさ、何も相談してこないってことは、
何とか自分で乗り越えたいと思っているんだよ。
だから今は手伝って欲しくないんだ。
もし、どうしても自分でダメだと感じたら、
きっと相談して来るよ」
「そうかな~? 放っておいたら何も相談してこないと思うけどな。
そのうちまた何か失敗でもしたらどうする?
今以上に傷ついたら、親として、子供に合わせる顔がないよ」
「う~ん、そうだね、今のままの君じゃ、相談してこないかもね」
「どういうことだ?」
僕は自分で感じたことを素直に言ってみました。
「だって君、子供のこと信頼していないでしょ。
子供が一番欲しいのは、自力で解決したという自信だよ。
考えてごらんよ。
俺達だって、何かあった時、
基本的には自力で解決したいと思うよね」
「それはそうだけど、自力ではどうにもできないから、
悩んでるんだろ。さっきも言ったけど、
また失敗したらどうするよ。
もう立ち直れないんじゃないか?
それに後で、なぜ助けてくれなかったんだと、
子供に恨まれたりでもしたら、
今後の関係に大きな障害になってしまうよ。
だから早く何とか手を打って、楽にしてあげたいんだ」
相談者は、まだ納得がいかない様子でした。
「君の今の言葉聞いたら、ますますその方がいいと思ったよ。
それに、そんな思いだと、そばにいるだけを実行しても、
子供は、ずっと相談してこないままだと思うよ。
まず、笑顔を忘れていない?」
「いやなるべく穏やかに接しているんだよ」
「だから、笑顔だよ。穏やかと笑顔は全然違うだろ」
僕は、ビールを注いであげながら、笑顔を強調しました。
「そんなこと言っても、せっかくの助言に切れるんだぞ。
笑顔になんかなれるわけがないじゃないか」
「助言より先に笑顔だよ。助言は二の次でいいんだよ」
再び、僕は笑顔の大切さを訴えたのでした。
「助言のどこがいけないんだよ。子供の成長を願う、当然の親心だろ」
「そうかな? 早く楽にしてあげたいんじゃなくて、
君が早く楽になりたいんだろ。俺はそう感じたよ。
君が子供のこと心配しているのは、確かだと思うよ。
でも、そう思っていることも確かだと思うよ。
子供って、そういうことに対しては、すごく敏感だよ。
だから今の気持ちのままで接していれば、
本人はそれを感じちゃって、余計プレッシャーになっちゃうんだよね」
「ほんとか?」
相談者は、少し驚いたように答えました。
「うん、俺はひどいいじめにあったことがあるんだ。
自殺を何度も考えるほどひどいものだったよ。
でも、ある理由から親には隠していた。知っていたのは弟だけだよ」
「ふ~ん、おまえがいじめられていたなんて、信じられないな」
相談者は少し興味深い顔をして聞いてきました。
「俺はいじめでめちゃくちゃ苦しい時、
ここで弟からケンちゃん頑張ってと言われたら、
つぶれちゃうなって感じていたことが、何度もあったよ。
何しろ、弟だけが知っていたからね。
しかも双子でめちゃくちゃ仲がいい。
だから誰よりも俺のこと心配だったはずだ。
俺も辛かったけど、弟も辛かったはず。
そんなこと、大人になってきてから分かったことだけどね」
「・・・・」
相談者は黙って聞いていました。
僕は話を続けました。
「でも、弟はいつも笑顔でそばにいてくれた。
いつもと変わらなかった。
だから俺、嬉しかった。
弟は俺が必ず乗り越えると信じてくれているって分かった。
それが理解できたら、力が湧いてきた。
そしてだからこそ、弟といる時は、
いじめを忘れることができたし、
心が癒された。
心の傷が回復して来て、
耐える力や前進する力が湧き出てきた」
「う~ん、そういうものかな~」
相談者は黙ってしまいました。
少し考えているようでした。
だが、僕の顔を覗き込むようにして
再び口を開きました。
「しつこいようだけど、失敗すると分かっていても、
何も言うなっていうことかい」
「うん、また失敗したらそれでいいじゃん」
「え~、バカ言うなよ。ダメに決まっているだろが。
何言ってるんだよ」
「大丈夫、それでいいんだよ」
「どうしてだよ。相談してくれなくても、
きちんと助言していれば、失敗しないかもしれないんだぞ」
相談者は少し怒ったようでした。
「けど、それでも、上手くいかないで失敗するかもしれないだろ」
僕がこう言うと、相談者は、ますます怪訝な顔になってきました。
「何言ってんだ? 失敗させたいのか? まず失敗なんかしないよ。
俺が失敗しない方法をちゃんと教えるんだから」
「そうだな、きっとそれが近道なのかもしれないな。
だけど、100%じゃないだろその方法。君の意見だろ。
もしかしたら、子供には合わない考え方かもしれない。
そうなれば、助言しても言うことを聞かないかもしれないよ。
もし、助言しても、言うことを聞かないで失敗したらどうする?」
今度は僕が聞き直しました。
-タマムシと弟2へ続く-
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