タマムシと弟1

前回、コウちゃんはタマムシのような弟だと書き、

その理由を今回書くとお知らせしていたので、

予定通りそうさせて頂きます。

 

僕はこれまで、数人の友人から子供に対して、

同じ相談を受けたことがありました。

子供が心を傷つけ悩んでいるようだ。

だが、助言しようとすると切れて、

部屋に引っ込んでしまうというのです。

しかし、親として何か言ってやらないと、

もしこれ以上失敗したり、傷ついたりしたら、

かわいそうでならない。心配でならない。

どうすれば、話を聞いてくれるようになるだろうか、

とにかく我が子なのに、子供の気持ちが分からない。

これが相談者に共通した相談内容でした。

 

そんな時、僕はいつもコウちゃんを思い出して

こう返事をしていました。

「そんな時は、笑顔を忘れずに、

ただそばにさえいてあげればいいんだよ」

 

そんな時のやり取りの中で、思い出深い一コマを紹介します。

「えっ、適当だな~。他人事だと思って簡単に言ってくれるよ。

ちゃんと相談にのってくれよ。

そんなんで、いい方に進むのなら相談してないよ。

それにしても、家の子はまったく、親不孝者だよ。

こっちは心配で言ってやってるのに、何で切れるかね。

子供のプライドってやつかい?

それなりにオブラートにくるんだやさしい言い方して、

諭しているつもりなんだけど、何がいけないんだろな」

ビールを僕のコップに注ぎながら、

友達は具体的な対応策を要求してきました。

「いやいや,俺は本気で言ってるんだよ。

そんなオブラートの言葉、必要ないって」

「何で?」

「うん、君が子供が傷ついているって、感じられるってことは、

まず君の子供、君に傷ついていることを

隠していないってことだよ。

君が言うように、本人は相当傷ついて、

そして相当頑張っているんだろうな。

でもさ、何も相談してこないってことは、

何とか自分で乗り越えたいと思っているんだよ。

だから今は手伝って欲しくないんだ。

もし、どうしても自分でダメだと感じたら、

きっと相談して来るよ」

「そうかな~? 放っておいたら何も相談してこないと思うけどな。

そのうちまた何か失敗でもしたらどうする? 

今以上に傷ついたら、親として、子供に合わせる顔がないよ」

「う~ん、そうだね、今のままの君じゃ、相談してこないかもね」

「どういうことだ?」

僕は自分で感じたことを素直に言ってみました。

「だって君、子供のこと信頼していないでしょ。

子供が一番欲しいのは、自力で解決したという自信だよ。

考えてごらんよ。

俺達だって、何かあった時、

基本的には自力で解決したいと思うよね」

「それはそうだけど、自力ではどうにもできないから、

悩んでるんだろ。さっきも言ったけど、

また失敗したらどうするよ。

もう立ち直れないんじゃないか? 

それに後で、なぜ助けてくれなかったんだと、

子供に恨まれたりでもしたら、

今後の関係に大きな障害になってしまうよ。

だから早く何とか手を打って、楽にしてあげたいんだ」

相談者は、まだ納得がいかない様子でした。

「君の今の言葉聞いたら、ますますその方がいいと思ったよ。

それに、そんな思いだと、そばにいるだけを実行しても、

子供は、ずっと相談してこないままだと思うよ。

まず、笑顔を忘れていない?」

「いやなるべく穏やかに接しているんだよ」

「だから、笑顔だよ。穏やかと笑顔は全然違うだろ」

僕は、ビールを注いであげながら、笑顔を強調しました。

「そんなこと言っても、せっかくの助言に切れるんだぞ。

笑顔になんかなれるわけがないじゃないか」

「助言より先に笑顔だよ。助言は二の次でいいんだよ」

再び、僕は笑顔の大切さを訴えたのでした。

「助言のどこがいけないんだよ。子供の成長を願う、当然の親心だろ」

「そうかな? 早く楽にしてあげたいんじゃなくて、

君が早く楽になりたいんだろ。俺はそう感じたよ。

君が子供のこと心配しているのは、確かだと思うよ。

でも、そう思っていることも確かだと思うよ。

子供って、そういうことに対しては、すごく敏感だよ。

だから今の気持ちのままで接していれば、

本人はそれを感じちゃって、余計プレッシャーになっちゃうんだよね」

「ほんとか?」

相談者は、少し驚いたように答えました。

「うん、俺はひどいいじめにあったことがあるんだ。

自殺を何度も考えるほどひどいものだったよ。

でも、ある理由から親には隠していた。知っていたのは弟だけだよ」

「ふ~ん、おまえがいじめられていたなんて、信じられないな」

相談者は少し興味深い顔をして聞いてきました。

「俺はいじめでめちゃくちゃ苦しい時、

ここで弟からケンちゃん頑張ってと言われたら、

つぶれちゃうなって感じていたことが、何度もあったよ。

何しろ、弟だけが知っていたからね。

しかも双子でめちゃくちゃ仲がいい。

だから誰よりも俺のこと心配だったはずだ。

俺も辛かったけど、弟も辛かったはず。

そんなこと、大人になってきてから分かったことだけどね」

「・・・・」

相談者は黙って聞いていました。

僕は話を続けました。

「でも、弟はいつも笑顔でそばにいてくれた。

いつもと変わらなかった。

だから俺、嬉しかった。

弟は俺が必ず乗り越えると信じてくれているって分かった。

それが理解できたら、力が湧いてきた。

そしてだからこそ、弟といる時は、

いじめを忘れることができたし、

心が癒された。

心の傷が回復して来て、

耐える力や前進する力が湧き出てきた」

「う~ん、そういうものかな~」

相談者は黙ってしまいました。

少し考えているようでした。

だが、僕の顔を覗き込むようにして

再び口を開きました。

「しつこいようだけど、失敗すると分かっていても、

何も言うなっていうことかい」

「うん、また失敗したらそれでいいじゃん」

「え~、バカ言うなよ。ダメに決まっているだろが。

何言ってるんだよ」

「大丈夫、それでいいんだよ」

「どうしてだよ。相談してくれなくても、

きちんと助言していれば、失敗しないかもしれないんだぞ」

相談者は少し怒ったようでした。

「けど、それでも、上手くいかないで失敗するかもしれないだろ」

僕がこう言うと、相談者は、ますます怪訝な顔になってきました。

「何言ってんだ? 失敗させたいのか? まず失敗なんかしないよ。

俺が失敗しない方法をちゃんと教えるんだから」

「そうだな、きっとそれが近道なのかもしれないな。

だけど、100%じゃないだろその方法。君の意見だろ。

もしかしたら、子供には合わない考え方かもしれない。

そうなれば、助言しても言うことを聞かないかもしれないよ。

もし、助言しても、言うことを聞かないで失敗したらどうする?」

今度は僕が聞き直しました。

-タマムシと弟2へ続く-