タマムシと弟4

「人の意見を聞く耳を持つことは、大切なことだと思うよ。

でもさ、最後は本人が決めることだよ。

助言を聞かないで、上手く行かなかったとするよ。

だからといって、助言した人間が、

自分の意見を聞かなかったことを

責めても仕方がないと思う。

物事に対して考え方はいろいろあるよ。

人生、山あり谷ありって言葉あるだろう。

小学校三年生の時だったよ、しっかり覚えているよ。

いじめを経験している俺には、

担任が言ったこの言葉が、こう聞こえたんだ。

人生、一生懸命悩んで決めたなら

山を選んでも、谷を選んでも

どっちでも同じだってね」

「ほ~、やっぱりおまえって面白いね。

どういう意味よ」

彼は含み笑いをしながら聞いてきました。

「うん、担任は、こう説明していたんだ。

これから皆さんが生きていく人生は

平たんな道ばかりではないのですよ。

むしろ山谷の繰り返しです。

山を登るにも下るにも苦労が必要です。

そしていろいろなことがあります。

良いことがあれば、悪いこともあります。

だから、浮かれすぎたり、落ち込みすぎたり

しないようにしましょう。

だけど俺には、これとは別に

二つのイメージが浮かんだんだ。

一つ目は、暗かったな~。

人生、山谷どっちを選ぼうと、

人生なんて、苦労しかないってイメージ。

いじめはそんなことの繰り返しばかりだった。

たとえば、悪口に苦しんで、しっかり言い返すように

しようと決心して、言い返した。

言い返せたと喜んでいたら、生意気だと囲まれて

ボコボコにされた。

そこで、今度は悪口に対して言い返さないようにしたら、

これまたなめられて、ボコボコにされた。

どっちを選んでも同じっていう暗いものだった」

「きついね~。小学校三年生で、そのことわざを

そんな風に感じるなんて。もう一つは?」

相談者は同情した口ぶりで、尋ねてきました。

「二つ目は、ちょっと救いがあるイメージだよ。

山を選んで、ひーひー言いながら登った人を

待っているのは谷なんだ。

谷は滑り台で降りて楽ちんなんだ。

反対に谷を選んだ人は、最初は楽ちんなんだけど、

すべり降りたら山が待っているんだ。

今度はひーひー言わされるんだ。

結局、順番は違うけど、

起こることは同じだろ」

「なるほど。で、その考え方は、未だに変わっていないわけだ」

「うん、基本的にはね。ただし、一番目のイメージは

最初みたいに暗くはない。

結局、人生は苦労の連続という意味では

的を得ていると思う。

今はどちらかというと、二番目のイメージの方が強いかな?

今いいと思ったことも、実は今、いいのであって

その後どうなるか全く分からないってこと。

いじめが終わってから、今に至るまで

そんなこと、何回も経験したよ。君もあるだろう」

「ああ、昔の彼女なんか、最初の頃なんか

質素で、口数が少なく、けっこうきれいだし、

羨ましがられた。俺も自慢だったよ。ところが

同棲して三日で別人に変身したよ。

ど派手で、口うるさく、家の中ではジャージだぜ。

谷底へ叩き落されたね。わははは」

-タマムシと弟5へ続く-