「人の意見を聞く耳を持つことは、大切なことだと思うよ。
でもさ、最後は本人が決めることだよ。
助言を聞かないで、上手く行かなかったとするよ。
だからといって、助言した人間が、
自分の意見を聞かなかったことを
責めても仕方がないと思う。
物事に対して考え方はいろいろあるよ。
人生、山あり谷ありって言葉あるだろう。
小学校三年生の時だったよ、しっかり覚えているよ。
いじめを経験している俺には、
担任が言ったこの言葉が、こう聞こえたんだ。
人生、一生懸命悩んで決めたなら
山を選んでも、谷を選んでも
どっちでも同じだってね」
「ほ~、やっぱりおまえって面白いね。
どういう意味よ」
彼は含み笑いをしながら聞いてきました。
「うん、担任は、こう説明していたんだ。
これから皆さんが生きていく人生は
平たんな道ばかりではないのですよ。
むしろ山谷の繰り返しです。
山を登るにも下るにも苦労が必要です。
そしていろいろなことがあります。
良いことがあれば、悪いこともあります。
だから、浮かれすぎたり、落ち込みすぎたり
しないようにしましょう。
だけど俺には、これとは別に
二つのイメージが浮かんだんだ。
一つ目は、暗かったな~。
人生、山谷どっちを選ぼうと、
人生なんて、苦労しかないってイメージ。
いじめはそんなことの繰り返しばかりだった。
たとえば、悪口に苦しんで、しっかり言い返すように
しようと決心して、言い返した。
言い返せたと喜んでいたら、生意気だと囲まれて
ボコボコにされた。
そこで、今度は悪口に対して言い返さないようにしたら、
これまたなめられて、ボコボコにされた。
どっちを選んでも同じっていう暗いものだった」
「きついね~。小学校三年生で、そのことわざを
そんな風に感じるなんて。もう一つは?」
相談者は同情した口ぶりで、尋ねてきました。
「二つ目は、ちょっと救いがあるイメージだよ。
山を選んで、ひーひー言いながら登った人を
待っているのは谷なんだ。
谷は滑り台で降りて楽ちんなんだ。
反対に谷を選んだ人は、最初は楽ちんなんだけど、
すべり降りたら山が待っているんだ。
今度はひーひー言わされるんだ。
結局、順番は違うけど、
起こることは同じだろ」
「なるほど。で、その考え方は、未だに変わっていないわけだ」
「うん、基本的にはね。ただし、一番目のイメージは
最初みたいに暗くはない。
結局、人生は苦労の連続という意味では
的を得ていると思う。
今はどちらかというと、二番目のイメージの方が強いかな?
今いいと思ったことも、実は今、いいのであって
その後どうなるか全く分からないってこと。
いじめが終わってから、今に至るまで
そんなこと、何回も経験したよ。君もあるだろう」
「ああ、昔の彼女なんか、最初の頃なんか
質素で、口数が少なく、けっこうきれいだし、
羨ましがられた。俺も自慢だったよ。ところが
同棲して三日で別人に変身したよ。
ど派手で、口うるさく、家の中ではジャージだぜ。
谷底へ叩き落されたね。わははは」
-タマムシと弟5へ続く-
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