タマムシと弟5

「ふふふ、そういうこともあるよね。

だから、子供のことに話戻すと

親のいうことを聞いて、その時のピンチを

脱したとしても、その影響で何でも

親を頼るようになってしまえば、

子供にとっても親にとっても

良くないことだよね。

だから、いろいろな側面も考慮に入れて

たとえ未熟であっても

本人が一生懸命悩んだ結果下した結論であれば

どちらも正解だってこと。

どちらを選んでも、その後どう変化していくかなんて、

誰にも分からない。

一時の成功で正しい判断、一時の失敗で間違った判断

なんて断定できない。

宝くじ三億当たっても

それがもとで、親戚や近所づきあい

家族関係が壊れたりして不幸になることもある。

人生って、そういうもんだって思っている。

要は、その時どちらを選んだとしても、

それを受け入れて、対処していけばいいんだ。

いちいち成功だ、それは誰のお陰、

失敗だ、それは誰のせいって、騒ぐなってこと。

子供が悩んで決めたんだよ、一生懸命悩んだんだ。

その子供の選択に、あれこれ言い過ぎるなってこと。

もっと子供を信頼してあげようってことだよ。

一番重要なのは、子供に生きていく自信を

つけさせること。

失敗を自分で認めて、カバーしていく力を

つけさせること。

だから絶対に失敗させることが必要だよ。

そういった意味で、真剣に考えてやった結果

失敗したなら、叱らずに

見守っていることの方が大切だと思うんだ」

「そうか、ようやく言いたいことが分かって来たよ。

悪かったな、先生失格なんて言っちゃって。

やっぱり、先生だったわ。

親には分からんかったことだよ。

少しそこらへん、考慮に入れて決断するよ。ありがとう」

この一年後くらいでした。

久しぶりに相談者から、電話がかかってきました。

相談者は、飲み友達だったのですが、

転勤してしまい、ずっと会わなくなっていました。

「子供は自信を取り戻し、切れることもなくなったよ。

先日、子供に信じてくれてありがとう。心配かけて

悪かった。お礼の印だって、誕生日でもないのに

ネクタイ、プレゼントされちゃったよ。

照れくさかったね。嬉しかった。本当にありがとう。

親の言うことを聞かないことを認める親心、いいこと学んだよ。

お陰で子供といい関係築けているよ。これからも気をつけるよ」

「良かったねぇ~。 お役に立ててうれしいよ」

こうして、この親子はハッピーに暮らしていけるように

なったようで、僕も安心しました。

僕がこの相談者の役に立てたのは、

すべてコウちゃんの受け入りでした。

コウちゃんが僕にしてくれたことを、伝えただけだったのです。

人は信頼されると、自信を取り戻して来ます。

コウちゃんがMさんに投げかける言葉は

おそらく、そういうものなのだと感じています。

僕がコウちゃんを、タマムシのような弟といった理由です。

それは、あのタマムシのように、なぜか大切な時に現れ、

僕に進むべき道を示してくれるからです。

口やかましく、あれこれ言うわけでもなく、

必要最低限のことを言ったら、

あとはいつも通りの態度で、一緒にいるだけなのです。

ですが、誰よりも僕を信じてくれているのが分かるので、

不思議と力が湧いてきて、前向きな決断ができるのです。

ちっちゃい時からそうなのです。

信じて見守ってくれていることが

何より嬉しいのです。

今まで何度か、コウちゃんがそういうことのできる人間だと

書いてきましたが、

これは相手を信頼しないとできないことなんだと、

大人になって分かってきました。

そして、それはとても難しいことであることも分かり、

七、八歳の子供になぜできたのか不思議でなりません。

しかし、コウちゃんが僕に示してくれた自信の取り戻し方は、

とても貴重な体験となり、僕の財産になりました。

僕の他人に対する接し方の基本を形成する

大きな要素になっていると感じています。

特に先生になってから、とても役に立ってくれました。

心に傷を負って自信をなくしている生徒に対して、

この体験はとても力になってくれたのです。

そして、この接し方を通じて、

大人だから子供より何でも分かっていると思うのは間違いで、

子供の方が分かっていることもあり、

子供からいろいろ学べるものだということも、学ばせてくれました。

 

僕にとっては、母同様、見ただけ、一緒にいるだけで

幸せを感じさせる輝きを持った、頼りになるかわいい弟なのです。

今後ともコウちゃんをよろしくお願い致します。