障害者差別解消法1

高校2、3年だから、おそらく1970年代後半だったと思います。

コウちゃんと歩いていると

「 ケンちゃん、これ何だか知ってる?」

コウちゃんが指さしたものは

道に敷かれた、幅30センチほどの

黄色いプレートが連なったものでした。

見ると、少し凹凸があり、直線的なでっぱりがあるものと、

点状のでっぱりがあるものがありました。

「ん~? 何だろう。ここは駐車禁止とか、そういう標識?」

「ううん、違う。これ、目が見えない人のための道案内なんだって」

「えっ、どういうこと?」

「うん、僕たちには分からないけど、

この凸凹でいろんなことが分かるんだって」

「ふ~ん、すごいね。ここで止まれとか、

右へ道が続くとか分かるの?」

「うん、そうらしい。それでこれ出来た時、

目の見えない人が何て言ったと思う?」

「ありがたい?」

「ううん」

「何?」

その後の一言が、僕の目頭を熱くしました。

「すごい、これなら僕、世界のどこにでも行ける気がするって

言ったんだって」

「・・・・・」

両手を広げて、笑顔で踏み出す姿が、見えた気がしました。

それは、まったく分からない道を手探りで歩くことに、今までどれほど、

苦労してきたかを教えてくれた言葉でした。

一瞬、言葉が出ませんでした。

コウちゃんも、黙って、自分が言った言葉を、かみしめているようでした。

「そうかい、すごいものなんだねコレ。少なくとも日本中に

これが普及するといいね」

「うん、ほんとだね」

これが、僕にとって、点字ブロック(障害者誘導ブロック)との

最初の出会いでした。

 

それからというもの、僕は道に敷いてあるこのブロックを見ると

「あれから、ずいぶんこのブロックが普及したんだな、いいことだな」

と思って、喜んできました。

利用している人がいない場合は、その足裏の感触を確かめるために

わざとその上を歩いたりしてきました。

そのたび、この点字ブロックとの出会った日を思い出していました。

もし、あなたが目隠し状態で道に連れて行かれ、

次のように言われたら、とても怖いと思います。

「ここから目をつむって10歩、歩いて下さい。

前に何があるか分かりませんし、何が来るかも分かりません。

そして、何にぶつかろうが、穴に落ちようが、私はいっさい助けません」

これが駅のホームであれば、とてもじゃありませんが、

怖くて歩けないと思います。

僕らは、普段まったく意識していませんが、

視力障害者の人達が、外出するということは、こういうことなのです。

 

点字無ブロックには、ちょっとした凹凸があります。

平地を歩いている健常者は、

これが道にあると、少し歩きにくいと感じるかもしれません。

ですが、そう感じた方は、一度、次のことを試してみて下さい。

前から何もこないことを確認したら、

目をつむって、平地を5,6歩歩いて下さい。

3歩くらいまでなら、さほどではないですが、その先、突然怖くなります。

その後、再び点字ブロックの上を、目をつむって、歩いてみて下さい。

どうですか? 安心するはずです。

この上なら、障害物がなく、真っすぐ歩いていても、安全だと思えるからです。

僕は、これをやって、

「はっ、ここにものがあったら危ない」

と、気がつくことができました。

そのことで、ある時、ちょっとしたケンカになりかけたことがありました。

僕が30歳くらいの時だったと思います。

道を歩いていると、点字ブロックに自転車が3台、停めてあったのです。

周りには誰もいないので、

僕は、自転車を道の反対側に移動させることにしました。

2台目を移動し終わった頃でした。

「てめぇ~、人のチャリ何かまってんだよ。勝手に動かすんじゃねぇ!」

と、どこからか出てきた、ヤンキー風のお兄ちゃん達に声をかけられたのです。

-続く-